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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)1078号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人当別当隆治の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。

弁護人当別当隆治上告趣意第一点について。

原判決文自体により所論「右(一)の連続犯の刑」というのは「右(一)の連続犯に係る詐欺罪の刑」の意味であることを認め得る。原判決は修辞上の瑕疵があるというそしりをまぬかれないものであるが、そのため併合罪の加重に関する法律の適用を誤ったことには当らないばかりでなく、論旨は単なる法令違背を主張することに当るから刑訴施行法第三条ノ二により上告適法の理由とならない。なお、論旨は原判決は判例に違反する旨を主張しているが、如何なる判例に違反するかを具体的に示していない場合は刑訴第四〇五条の所謂判例違反の主張に当らないことは当裁判所数次の判例の示すところであるから、論旨は採用しがたい。

同第二点について。

憲法第三七条第一項に所謂「公平な裁判所の裁判」というのは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつ裁判所の裁判を意味し、個々の事件につきその内容事実が具体的に公正妥当な裁判を指すものでないことは当裁判所判例の示すところである(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決)。従って論旨前段被告人を執行猶予にしなかったのは憲法第三七条の公平な裁判を受ける権利を奪った違法があるとの主張は採用しがたい。なお所論「現行刑事訴訟法の量刑不当を上告の理由より除外した規定こそ将に憲法第三七条に違背するものと信ずる」との主張は刑訴応急措置法第一三条二項は憲法第三七条一項に違反しないと判示した当裁判所判例(昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日大法廷判決)刑訴施行法第二条は憲法に違反しないと判示した当裁判所判例(昭和二三年(れ)第一五七七号同二四年五月一八日大法定判決)刑訴四一一条は憲法第三七条に違反しないと判示した当裁判所判例(昭和二五年(あ)第一四一七号同年九月一九日第三小法廷判決)の各趣旨に徴し理由のないことが明らかであるから論旨は採用しがたい。

同第三点について。

憲法第三六条に所謂残虐な刑罰とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味し、被告人の側から見て過重の刑必ずしも残虐な刑ではなく(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月三〇日大法廷判決)、又法定刑の種類の選択又は範囲の量定不当を指すものではない(昭和二三年(れ)第二八一号同二五年二月一日大法廷判決)。従って原判決が被告人に対し法定刑の範囲内において実刑を科したことを目して憲法第三六条に違背することを主張する論旨は採用しがたい。また記録を精査しても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴施行法第三条の二、刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保)

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